写真・図版
研修でJAXAを訪れた徳島大学宇宙栄養研究センターの二川健教授(左から2人目)と学生ら=2024年12月12日午後2時31分、茨城県つくば市、相江智也撮影
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版

 地球の上空400キロを周回する国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」。精密機器がひしめく空間で、宇宙飛行士の古川聡さんがラットの筋肉細胞が入った容器を顕微鏡にセットする。

 その様子が映し出された大型モニターを、徳島大学宇宙栄養研究センター講師の内田貴之さん(34)が固唾(かたず)をのんで見守った。

 茨城県つくば市の宇宙航空研究開発機構(JAXA)とISSをオンラインでつないで実施した宇宙実験。2023年11月のことだ。ラットの細胞変化を遠隔から顕微鏡で観察する準備を終え、カメラに向かって親指を立てる古川さん。内田さんは顕微鏡の操作に向け、気を引き締めた。

無重力下での実験続け、着実に前へ

 寝たきり状態や宇宙のような無重力環境下で、なぜ筋肉は萎縮するのか。そのメカニズムを解明するための実験だ。

 筋萎縮の原因となる物質を特定するため、条件を変えて「きぼう」で実験を繰り返す。2010年に始まった徳島大学が関わる宇宙実験は約10回にのぼる。

 米フロリダ州のケネディ宇宙センターでラットの筋肉細胞を培養し、観察できる状態にセットして打ち上げるが、打ち上げの延期や液漏れなど、トラブルはつきもの。それでも地道にデータを積み上げ、一歩ずつ前に進む。

 次の宇宙実験は今年3月。内田さんは今、大学院博士前期課程の津田晴香さん(24)らと共に、その準備を進めている。

 徳島大学宇宙栄養研究センターが進めるこうした研究は、宇宙で起こる筋萎縮などの症状を軽減する「機能性宇宙食」の開発が狙いだ。将来的には「食べるだけで筋肉を維持できる」ものをめざす。

 アポロ計画以来の月面着陸や、その先の火星の有人探査をめざす米国主導の「アルテミス計画」が進むなか、長期の宇宙滞在を可能にする「食」の研究の最先端を徳島大学が担っている。

 なぜ、徳島大学が? 記者が率直な問いをぶつけると、内田さんの恩師で、センター長の二川(にかわ)健教授(63)=宇宙栄養学=は「かつて、JAXAにも同じことを言われました」と笑った。

 徳島大学と宇宙の関わりは約30年前にさかのぼる。

 寝たきりの人の健康改善などへの応用も期待される「宇宙食」。記事後半では、研究の現在地や宇宙での長期滞在を見据えた構想などを紹介します。

 研究医として筋萎縮をテーマ…

共有